アートコレクターが発信するアート情報サイト    Art information site sent by art collectors

【アートレビュー】「Tanking Machine -Rebirth- 90年代のヤノベケンジ展」

「Tanking Machine -Rebirth- 90年代のヤノベケンジ展」

京都の MtK Contemporary Art で開催されているヤノベケンジさんの個展にお伺いしてきました。

Tanking Machine -Rebirth-《タンキング・マシーン‐リバース》
ヤノベケンジの《タンキング・マシーン》(1990)は、ヤノベのデビュー作であると同時に、90年代の日本の現代アートシーンにおいても記念碑的な作品です。60年代の「具体」、70年代の「もの派」、80年代の「ニュー・ウェイブ」と続き、90年代の一つのトレンドとなる「ネオ・ポップ」を牽引し、冷戦終結後、グローバリズムが覆う平成を切り開いた作品といえます。 ヤノベは、1989年、RCA(ロイヤル・カレッジ・オブ・アート)に短期留学中に、幼少期から西洋美術史の大作を身近で見て育つ子供たちの姿を見て、日本人の自分がやっても敵わないことを痛感し、自分の内面を見つめ直します。そして、漫画・アニメ・特撮・SFなどのサブカルチャーに触れて育んだ自分の美学を探求し、彫刻作品にすること考えます。 そこで思いついたのが、SFの中でも注目されていた、神経生理学者ジョン・C・リリーの考案した「アイソレーション・タンク」を使って、疑似的な胎内回帰をし、自分の原点に戻ることでした。そこでは隔離された空間の中で、体温に近い温度に温められた生理食塩水に浮かび、感覚からの情報が限りなく遮断された状態になります。そのための、自分の記憶の深部に遡り、幻想を見るといわれています。 留学中にプロトタイプを制作、帰国後、日本のサブカルチャーで養われた美意識やフォルムを反映させた体験型の彫刻作品《タンキング・マシーン》に仕上げます。顔には、自身のライフマスクを象り、イギリスの骨董市で購入したガスマスクを取り付けました。両脇のプロパンガスを付け、バーナーで温めて、体温程度の水温にすることができます。それは自身の原点回帰の機械(マシーン)でした。 1990年、東山の三条通沿いにあった「アートスペース虹」の個展で最初に発表されます。高さ240cm、幅240cm、奥行き240cmの巨大な彫刻は、「虹」のサイズに合わせて設計され、上下が分割できるようになっていました。水着を持参するようDMに書かれた展覧会は開催中から話題となり、多くの美術関係者が訪れ、タンクの中に入る経験をしました。後に、1996年には、「リレーショナル・アート」と称した作品を集め、ニコラ・ブリオーがキュレーションした「トラフィック」展にも出品されることになります。そして、インタラクティブ、参加型、リレーショナルな作品としても位置付けられるようになりました。 プロトタイプの制作から30年を経て、2019年、ロサンゼルスのギャラリー、ブラム&ポーで開催された80年代、90年代の日本の現代美術を取り上げた展覧会「パレルゴン」のために再制作し、《タンキング・マシーン・リバース》(2019)としました。 2020年、新型コロナウイルスによるパンデミックが起き、世界中で都市のロックダウンや外出自粛令が発出され、社会全体が「隔離」されているといえます。しかし、ペストが猛威をふるった1665年、故郷のウールスソープで自宅待機を余儀なくされたケンブリッジ大学の学生、ニュートンは一人で思索を進め、微分積分学、万有引力、光学など様々な研究を進め、「驚異の年 (Year of Wonders)」と呼ばれています。 本展では、「隔離」の時に創造性が育まれ、「再生」することを願い、《タンキング・マシーン・リバース》を京都の地で再び展示します。また、その後のヤノベケンジの独創的な作品も併せて展示いたします。

 

展示スペース中央には、ヤノベケンジさんの代表作である「アトム・スーツ」「アトム・カー」が展示されています。この作品はいくつか制作されていますが、今回の作品以外は全て美術館所蔵となっており、実質コレクションできる最後の作品と言えます(ちなみにセットでの販売のようです)。

ミュージアムピース価格となりますが、90年代の現代アートシーンを象徴する、ヤノベケンジさんを代表する作品と考えれば、妥当な価格でした。

 

「アトム・カー」「アトム・スーツ」を囲むように、チェルノブイリなどを舞台に撮影された「アトムスーツ・プロジェクト」の大きな写真作品が展示されています。

 

ヤノベケンジさんらしい、優しいドローイングも多数展示されていました。

 

京都京セラ美術館で開催されている「THE ドラえもん展 KYOTO 2021」に合わせて、唯一2021年の新作作品が展示されていました。来年オープンする大阪中之島美術館でも展示される「SHIP’S CAT」シリーズの作品です。

 

隔離されたタンク内で生理的食塩水に浸って瞑想する体験型の彫刻作品「タンキング・マシーン」です。「タンキング・マシーン」は、金沢21世紀美術館にコレクションされていますが、今回展示されているものは再制作された「タンキング・マシーン-リバース」です。新型コロナウイルスによるパンデミックで社会全体が「隔離」されているなか、創造性が育まれ「再生」することを願って再制作されたようです。

 

ヤノベケンジさんの90年代の作品をまとめて観ることができる、無料とは思えない充実した内容でした。
会期は残り少ないですが、皆様ぜひ。


タンキング・マシーン リバース 90年代のヤノベケンジ展

2021年5月29日-7月19日

10:00~18:00

MtK Contemporary Art

 

 

 

 

 

最新情報をチェックしよう!