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【アートレビュー】パク・ジヘ 「Lepidoptera」

パク・ジヘ
「Lepidoptera」

京都のFINCH ARTSで開催されているパク・ジヘさんの個展に伺ってきました。

パク・ジヘ(Jihye Park|박지혜)さんは、大韓民国ソウル生まれで、中央大学美術学部西洋画・同大学院西洋画学科を修了され、現在ソウルで活動されている作家さんです。生活における自伝的な経験と創作の世界の表現を試みており、「電気カーペットマニア」(Gallery Meme/韓国ソウル、2020)、「絵の回収」(Artbit Gallery/ソウル、2019)など、これまで4回の個展を開催し、多数のグループ展に参加されています。

「불」の関係網の渦へ

「불(プル)」という韓国語がある。この単語には二つの意味があるのだが、「火」と「電気」という意味だ。同じ単語を使いながらも、会話によってそれぞれ火や電気を指したりする。強いて言うなら、「불」は日本語の「明かり・灯り」だろう。しかし、周りを明るくする行為ではなく、元素的なものに意味が重なっている点で、「明かり・灯り」と訳す以上に面白い意味合いとなっている――火は電気となり、電気はまた火にもなるからだ。

パク・ジヘの作品を初めて見たのは、『PACK2019:冒険!ダブルクロス』(Post Territory Ujeongguk/韓国ソウル、2019)という企画だった。キューブ状のショーケースに作品を陳列するこの企画で、パク・ジヘは人物と鳥を象ったオブジェを展示した。蛍光色のアクリル絵具と毛糸を使って制作されたオブジェは、キューブに内蔵された照明を受け、色彩感がより一層際立っていた。翌年には、個展『電気カーペット・マニア』(Gallery Meme/韓国ソウル、2020)が開催された。出展作は電気カーペットをはじめ、電化製品と共に暮らすアーティストの日常を描いたペインティングだった。スマートフォンのライトや電気ストーブの光は扇状や帯状となり、人物や作業場の風景に重ねられている。キューブの中の照明はホワイトキューブの照明に代わったが、色彩感が失われることはなかった。人工的な光はキャンバスという画面の中に色彩感を伴って視覚化され、はっきりと引かれた境界線・輪郭と配色によって、画面全体に渡って色彩感に強弱が与えられている。

二つの展示において色彩感は、作品の外から受ける光と、作品の内に描かれる光の描写の両者によって、活き活きとした印象を見る者に与える。パク・ジヘの作品において「光」は、生活の中で感じ取る光とそれをキャンバスに描いたもの、さらに作品の展示される環境という、異なる空間と結びつくことになる。そのような特徴は、今回の個展でも見て取れるだろう。『Lepidoptera』では、光だけでなく、その原因でもある火(<消えない炎>)と電気(<Flash>や<雷を掴んだ人>)、さらにはこれらがもたらす周りの関係までに展開している。それは冒頭に述べた「불」の関係網と言い換えられるだろう――雷や太陽といった自然光と、室内灯やスマートフォンなどの人工の光、それに引き寄せられる蝶や蛾と人間たち、光を象ったり画中で光となる筆遣い、それらを照らす展示会場。

四季が日本とほとんど重なる韓国から会場に運ばれたのは、私たちの身の周りで近頃よく見る光景でもある。電気カーペットの季節とは真逆の時期に開催される展示で、パク・ジヘのペインティングは、どのように人々を手招くのだろうか。会場で飛び交う蝶や蛾、室内と屋外、昼と夜の景色は、アクリル絵具と油絵具を用いた色彩感と、ホワイトキューブという空間に設置された人工の照明によって、煌きを増すだろう。元素的な火・電気というモチーフが、色彩というこれまた元素的なものによって、会場でどのように輝くのか。その「불」の関係網の渦に、一度引き寄せられてみてはいかがだろうか。
(文:紺野優希)

 

 

DMやプレスリリースで見た印象では、ポップなイラストテイストなさらっとした絵かと思っていました。

実際に観ると、筆跡を感じさせないさらっとした塗りの部分もあれば、あえて筆跡を感じさせる厚塗りをしている部分もあり、絵本来のポップな要素とも相まって、多様な表現がキャンバスに広がっています。画像で見るよりも、より「絵画」らしい作品です。

展示作品を見ていると、ホックニーの絵画を思わせる表現があったり、本人が描かれていたりと、絵の中に沢山の仕掛けがあるように感じました。作家本人がいなかったためお話しを聞くことができませんでしたが、いつかご本人に聞いてみたいですね。

引き出しの多そうな面白い作家であると感じました。

パク・ジヘの日本初個展、皆様ぜひご覧ください。


会期:2021年7月9日(金) – 8月8日(日) 13:00-19:00

会期中の金土日開廊

venue:FINCH ARTS

企画協力:紺野優希

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