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【調べてみた】美術品の寄贈について調べてみた。

美術品の寄贈について調べてみた。

私のコレクター仲間であり、著名なサラリーマンコレクターの石川賢司さんが、コレクションする長谷川繁さんの作品《死ゲル》を豊田市美術館に寄贈されたというニュースが舞い込んで来ました。

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このニュースはコレクター界隈でも話題となっていますので、美術館の寄贈について調べると共に、今回の寄贈について石川さんにお話を伺ったことについてまとめさせて頂きます。

寄贈といえば、ニューヨークの〈メトロポリタン美術館〉の200万点もの膨大なコレクションの多くは、アメリカでも指折りの資産家たちによる寄付や寄贈で構成されていることや、香港の美術館〈M+〉に、スイス人のコレクター、ウリ・シグが1463点の作品を寄贈したことも有名です。

一方、日本は税制上の理由などにより美術品の寄贈文化がまだまだ根付いていない国といえますが、山村コレクションの山村德太郎や、山本コレクションの山本發次郎など、歴史的にも様々なビッグコレクターが名作を寄贈してきました。

今回のニュースで注目すべきは、一般的なサラリーマンコレクターである石川さんが、日本を代表する美術館に作品を寄贈したという点です。なぜ、このニュースが話題となっているのかを理解するために、まずは寄贈についてまとめていきたいと思います。

寄贈と寄託の違い

まず理解しておきたいことが、寄贈(きぞう)と寄託(きたく)の違いです。

【寄贈とは】
所有者が美術品を寄贈先に完全に譲渡する方法です。所有者は、美術品を無償で寄贈先に贈ることによって、所有権を放棄し、寄贈先に所有権が移転します。寄贈先は、美術品を自由に使用、展示、販売することができますが、所有権は寄贈先に移転していますので、所有者としての権利は失われます。

【寄託とは】
美術品の寄託は、所有者が美術品を一時的に寄託先に預け、所有権を保有する方法です。所有者は、寄託契約により、美術品の預託期間や展示条件、販売条件などを定めることができます。所有権は所有者が保有しており、寄託期間が終了した場合は所有者に返却されます。

つまり、美術品の寄贈は完全に所有権を移転する方法であり、美術品の寄託は所有権を保有しながら他者に預ける方法です。どちらの方法も、美術品を他者に提供する方法ですが、法律的な立場や所有権の変化において大きな違いがあります。

寄贈によるメリット

美術館に美術品を寄贈するメリットについては、以下のようになります。

  1. [永久的な保存]
    美術館に美術品を寄贈することで、作品が永久的に保存されることが保証されます。美術館は、収蔵品を大切に保管し、将来の世代にも作品を観てもらうことができます。
  2. [芸術文化の継承]
    美術館に美術品を寄贈することで、芸術文化の継承に貢献できます。寄贈された作品は、美術館の展示や教育活動に活用され、広く社会に貢献します。
  3. [名声の獲得]
    美術品を寄贈することで、寄贈者自身の名声が高まる場合があります。美術館の展示において、寄贈者の名前が明記されることが多く、その名声が広まることがあります。
  4. [税制上の優遇制度]
    公的機関等に寄贈する場合、日本では美術品の”購入時の取得価格”が所得から控除されます。しかし、控除額には上限があり、高額な美術品は控除しきれない現状です。一方、アメリカは”寄付する時点の市場価格の100%”が控除される上に5年間の繰越控除が可能と、日本の税制優遇は不十分な状況です。

どうやって寄贈するの?

以下が、美術館に美術作品を寄贈する手順の一例です(美術館によって手順が異なる場合がありますので参考程度でお願いします)。

  1. 寄贈したい美術作品が寄贈先の美術館の収蔵範囲に合っているか確認します。そのために、美術館のウェブサイトやカタログなどで収蔵品や収集方針を確認します。
  2. 美術館に寄贈する作品の詳細を確認し、作品の写真や説明文を準備します。作品の年代や作者名、制作年月日、寸法、素材、価格などの情報が必要です。
  3. 美術館に寄贈を申し出るために、美術館の担当者に連絡します。美術館によっては、担当者の連絡先がウェブサイトに掲載されている場合があります。
  4. 美術館の担当者と対面して、作品の詳細や寄贈に関する条件などを話し合います。寄贈に関する契約書を作成し、双方が合意したら署名します。
  5. 作品を美術館に届けます。作品の梱包や輸送に関する費用は、寄贈者が負担する場合や美術館が負担する場合などケースバイケースです。

以上が、一般的な美術館に美術作品を寄贈する手順です。ただし、美術館によっては受け入れ基準が厳しく、作品を受け入れない場合もあります。

以上、美術館への寄贈と寄託について簡単にまとめてみましたが、石川さんに寄贈を考えてる方にメッセージはあるかとお伺いすると
「寄贈しようという基準で作品を買うのは今の日本ではやめた方がいいとは思います。寄贈なんて考えず、自分に刺さるとか好きとか必要だ、と思う作品を蒐集して楽しんで、何年も後にたまたま寄贈できる作品に育っていた、くらいの気持ちでいたほうがいいのではと思いました。自分ならそうします!」とコメントを頂きました。

アーティストにとって美術館に収蔵されることは最大の喜びであり、最も価値のある出来事かと思いますが、財力のあるコレクターでない限り、中々気軽に寄贈することは難しいかと思います。

今回の石川さんは、作家や作品を心から愛することで、様々な繋がりが生まれ、色々な偶然が重なり寄贈することになりました。

私たちも、寄贈する・しないに関わらず、コレクションしていく中で、表面的な部分だけではなく、しっかりと作家さんや作品に向き合い、愛していくことが大切であると思います。
その結果の一つとして、寄贈や寄託などにより、素晴らしい作品を様々な方に鑑賞していだけ、後世に残すことができるようになればとても素敵だなと感じました。

今回、石川さんが作品を寄贈したことは、豊田市美術館だけではなく、日本のアート業界にとっても大変大きな意味を持つ行動であり、英断であると思います。

今後は石川さんのような素晴らしいコレクターが増えると同時に、税制面の優遇などにより、より寄贈しやすい社会となることを願います。

 

 

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