黒宮菜菜 個展「鳥を抱いて船に乗る」
大阪のギャラリーノマルで開催されている黒宮菜菜さんの個展を紹介します。
黒宮菜菜さんは、2019年の大原美術館の若手作家支援事業「ARKO」招聘と同館での作品発表、2020年3月に開催されたVOCA展2020での佳作賞受賞など、近年評価を高めている注目の作家です。
以下、過去の黒宮さんの記事です↓
今回の展示は、古墳から発掘された渡り鳥を抱いて葬られた少年がモチーフの作品です。
鳥を抱いて船に乗る
紀伊半島にある古墳時代の遺跡のなかにアジサシ(渡り鳥)を抱いて葬られた少年の遺骨が発見されている。展覧会タイトルの「鳥を抱いて船に乗る」という言葉は、鳥を抱いて永遠の眠りについたこの子供から着想を得たものだ。
子供の魂が迷わず無事に他界へと導かれるように。そして、再び渡来し自分たちのもとへ蘇ってくるように。親族が渡り鳥であるアジサシに想いを託したのであろうか。船のイメージもまた古墳時代の遺跡からヒントを得ている。被葬者の棺を船形に加工しているケース(実用された本物の舟が使用されている場合もある)が日本の各所に見られるのだ。
魂を乗せた船は他界へと旅立つが、再びこの地に帰ってくるものなのであろう。船の特性を考えれば行ったきりではないはずだ。生と死を往来する器。それが船に込められたメタファーだと思う。人が人の生や死をどのように考え、解釈してきたのか。自明である有限の命のことを考えないわけにはいかないのは人間の性分だ。わたしは、その性的な思考にとても興味がある。
黒宮菜菜 Nana Kuromiya
古墳から発掘された葬られた少年の骨と聞くと、「死」という言葉を連想してしまい、少しネガティヴなモチーフだなと感じていました。
実際に展示を観て、黒宮さんからお話を聞くことで、この展示は決して「死」という言葉を表しているのではなく、「生」や「死」に対する人々の想いや願いを一種の物語にした、とても前向きなモチーフであると感じました。
作品全体の色味も明るく柔らかく、死者に対する「死」というイメージではなく、「愛」という言葉がピッタリな優しい雰囲気でした。
黒宮さんの作品は、深層に油彩、浅層に蜜蝋を用いることで、様々な質感が重なり、独特の表現が生まれています。
今回は蜜蝋の部分に本物の石やドライフラワーを埋め込んだり、蜜蝋の部分を削ることで模様やモチーフを描くなど、去年の個展では観られなかった新たな表現技法が見られました。
物質が封入されることにより、物語の「時間」を絵画の中に封じ込めたような、黒宮さんらしい素晴らしい表現でした。
何時間でもその空間に居たくなるような、本当に素晴らしい展示でした。
遠方からも足を運ぶ価値のある展示かと思います。
皆様ぜひ観に行ってみてください。
鳥を抱いて船に乗る
In the boat with the bird
黒宮 菜菜
Nana Kuromiya2022.10.1(sat) – 2022.10.29(sat)
13:00 – 19:00 日曜・祝日休廊
Closed on Sunday and National Holiday