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【アートレビュー】小谷くるみ個展「ヘーパイストス Ἥφαιστος」

小谷くるみ個展「ヘーパイストス Ἥφαιστος」

少し遅くなってしまいましたが、Gallery Nomartで開催されている、小谷くるみさんの個展「ヘーパイストス Ἥφαιστος」について紹介します。

小谷くるみさんは、現在最も注目されている若手現代アーティストの1人です。国内に留まらず、海外のコレクターにも注目を浴びており、先日開催されたART OSAKA 2022 でも作品が20分ほどで完売していました。

小谷くるみさんのインタビューはコチラ!

小谷くるみさんの前回の個展レビューはコチラ!

小谷さんといえば、「21g」という窓の結露に描いたようなシリーズの作品が人気ですが、今回は全く異なった技法の作品で構成された新作展です。前回のGallery Nomartの初個展では錆を使った新シリーズで勝負していましたが、今回の展示は、銀箔を使用した新シリーズです。

古来から銀は高価なもの、価値の高いものとして扱われてきました。現在の価値基準では金よりは価値が低いけれど、銀食器などは高いステータスを表すものとして扱われてきました。
一方で古代エジプトでは金より銀の方が価値が高いとみなされ、金で造られたものの上から銀メッキが施されたものがあったそうです。

価値基準や境界は常に揺らぎ、不安と共にある、意味のあるようでないようなものなのかもしれないと思うことがあります。
日頃何気なく使っている文字たちが突如として意味のない線同士の交差に見え、どういった音や意味が乗っていたかわからなくなる、なんてことがあるかもしれない。

今日、我々は素早く世界の人々と繋がることができ、お互いの価値観を共有し関係性を築くことも容易くなりました。
いくら揺るがないと思っている価値基準でも実は常に揺らぎ、不安定な存在だということを認識するには客観的にならなければなりません。

それは私の場合は日本人、アジア人、地球人、そして生物として。

世界中の人々は何故人の生き死にに花を添えるのか。
こんなにも多様な文化がある地球で一定の共通する「人的な」表現があることに驚きを抱くことが多々あります。

なぜ人は人種や地域に関わらず本来の意図には含まれない装飾を施し、連綿と繋がる文化を築くに至ったのか。

ヒトだからこそ感じてしまうもの、考えてしまうこと、点と点を繋ぎ線にする行為。

小谷 くるみ Kurumi Kotani

一見すると、どういった作品なのか画像では伝わりにくいのですが、布地に貼った銀箔を燻液で硫化させることで描画しています。
遠くから観ると描いているモチーフが目に飛び込んできますが、近づいて観ると下地となる布地の模様が浮かび上がってきます。

タイトルの「ヘーパイストス Ἥφαιστος」は、ギリシャ神話の創造の神「ヘーパイストス」のことで、炎と鍛冶の神といわれ、神話では自分の工房で様々な武器や道具、宝を作り、工芸の神とも称される存在です。

COVID-19の拡大により、人々の様々な活動がストップし、様々な物がリセットされている未曾有の時代といえますが、本展のモチーフは、”花”と”手”のモチーフが中心となり構成されており、そのような厳しい時代の世界に咲き始めた花や、復興を祈る手、世界を造り始める手のように、再生や発展を表しているように感じました。

加えて、小谷さんの新たな表現手法の作品を、へーパイストスと名付けた個展で発表することで、表現者として次のステージへ進んでいくという強い意思表示のように感じる展示でした。

どの作品のクオリティも素晴らしく、強く引き込まれる作品ばかりでした。

残り会期は短いですが、傑作揃いの素晴らしい展示でしたので、皆さま是非観に行かれてみてはいかがでしょうか。

 

 

 

 

ヘーパイストス
Ἥφαιστος
小谷 くるみ
Kurumi Kotani

Gallery Nomart

2022.7.9(sat) – 2022.8.6(sat)
13:00 – 19:00 日曜・祝日休廊

 

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