「ひみつの花園」
東大阪の東大阪市民美術センターで開催中の企画展「ひみつの花園」にお伺いしてきました。
東大阪の花園といえばラグビーの聖地として有名で、ワールドカップが開催された花園ラグビー場のあるエリアです。
今回の会場は、花園ラグビー場の横にある東大阪市民美術センターというスペースでの展示です。
英国人作家フランシス・ホジソン・バーネットが1910年に執筆した『秘密の花園』。孤独な少女が荒廃した庭の再生をとおして、人生の喜びを取り戻していく姿が描かれていますが、ガーデニングが盛んな英国では、庭仕事や植物との関わりが私たちの心身の健康につながると考えられてきました。
ところで、ここ「花園」は「高校ラグビーの聖地」として知られていますが、そもそも「花園」は花畑や庭園を意味します。ということは、この地名の由来は・・・・・・?
本展では、さまざまな伝承があるなか、この地がかつて花園だったかもしれないという伝承に立ち返り、現代美術作品によりセンター内にいにしえの花園を蘇らせます。展覧会をとおして、古くて新しい「花園」の魅力を発見していただければ幸いです。
ー東大阪市民美術センター公式HPより引用<https://hos-higashiosaka-art.com/exhibition/>
本展では以下の作家が参加しています。
- 今村 文
- 大塚 泰子
- 奥田 美樹
- 山田 純嗣
- 渡辺 英司
作家別に紹介していきます。
渡辺 英司
1961年愛知県生まれ。1985年愛知県立芸術大学彫刻科卒業。2004-2005年文化庁芸術家在外派遣研修員(エジンバラ芸術大学客員研究員)。
おもな展覧会に「出会い」展(2001年、東京 オペラシティアートギャラリー)、「笑い展:現代アートにみる『おかしみ』の事情」(2007年、森美術館)、 あいちトリエンナーレ2010 (2010年、愛知県)、「ミーツ・アート 森の玉手箱」(2014年、箱根彫刻の 森美術館)など。
今回のメインビジュアルにもなっている渡辺英司さんの作品です。
壁面一面を使った作品と大きな部屋を使用したインスタレーション作品で、植物図鑑から切り取った植物を空間に配置しています。それにしても恐ろしい数です… 床から植物が生えてきているような、荒野が森になる過程のような印象を受けました。
今村 文
1982年愛知県生まれ。2008年金沢美術工芸大学大学院美術工芸研究科絵画専攻油画コ ース 修了。
おもな展覧会に「芸術植物園」(2015年、愛知県美術館) 、あいちトリエンナーレ2016 (2016年、愛知県)、「アイチアートクロニクル1919-2019」(2019年、愛知県美術館)、VOCA展 2020 (2020年、上野の森美術館)など。
VOCA展や愛知県美術館にコレクションされたり近年注目されている作家ですが、初めて拝見しました。
植物を水彩で描き、それを切り取り紙にコラージュすることで、本物の押し花のように擬態させています。貼り付けている紙の質感や淡い色合いや、額の中に閉じ込めてしまった虫のようなコラージュが、長い年月保管されている標本のように見えてきます。中に閉じ込められた虫の一部は額の外に出ている遊び心も発見できました。
【コラム】愛知県による若手作家支援について
山田純嗣
1974年長野県生まれ。1999年愛知県立芸術大学大学院美術研究科油画専攻修了。
おもな展覧会に「ポジション2012」(2012年、名古屋市美術館)、「アイチのチカラ!」(2013年、愛知県 美 術 館 ) 、「 絵 画 を め ぐ っ て 理 想 郷 と 三 遠 法 」 ( 2 0 1 4 年 、 一 宮 市 三 岸 節 子 美 術 館 ) 、「 B I W A K O ビ エ ン ナ ーレ」(2016年、近江八幡旧市街)、「アイチアートクロニクル1919-2019」(2019年、愛知県美術など。
初めて拝見しましたが(展示歴を調べると見ているかもしれませんが…)、非常に素晴らしい作家さんであると感じました。
特に大作とインスタレーション作品が本当に素晴らしい…
印画紙に写真を焼き付け、その上からエッチングを施す「インスタリオ・オン・フォト」という独自技法で制作されています。被写体はインスタレションにもなっている針金や樹脂に石膏をかけて制作した小さな立体作品です。1枚目の作品はMoMAに収蔵されているアンリ・ルソーの「夢」がモチーフになっています。
「夢」と同じサイズ・同じ構図で制作されていますが、元ネタにはある裸婦とフルートを吹く蛇使いの上半身を大胆に省略しています。そうすることで視点を足元の植物に誘導させ、蓮や葉藁といった本来は脇役であった植物を主役にしています。
また、近いづいて見るとエッチングによる細かな文様を発見できます。鑑賞者と絵画の距離によりフォーカスされる対象物が変わる(近づくと文様が、離れると「夢」が主体に見えてくる)ように構築されています。
素晴らしかったです。
大塚泰子
1968年広島県生まれ。1995年多摩美術大学大学院美術研究科絵画専攻版画修了。
2004-2005年ポーラ美術振興財団海外研修員として英国にて研修。2009-2010年文化庁新進芸術家海外研修制度により英国にて研修。おもな展覧会に「プロジェクトN」(2002年、東京オペラシティ アートギャラリー)、「アイチアートクロニクル1919-2019」(2019年、愛知県美術館)、「DOMANI plus@愛知|まなざしのありか」(2022年、愛知芸術文化センター)など。
この作家さんの作品は画像ではなかなか伝わりにくいですね。
キャンバスにクリアメディウムで描かれており、うすーく像がみえてきます。画像だと高松次郎作品のように見えますが、大塚さんの作品は光沢感のある感じで、影というよりは霧の中で見えているような印象でした。
奥田美樹
1970年愛知県生まれ。1997年愛知県立芸術大学大学院美術研究科油画専攻修了。
おもな展覧会に「奥田美樹展-natural-」(1999年、清須市はるひ美術館)、「美術を遊ぶ展」(2009年、 稲沢市荻須記念美術館)など。
キャンバスをくり抜いて蔦のように這わせている作品と、キャンバスの側面より植物が中心に向かって伸びていくように描かれたペインティング作品です。ペインティング作品はキャンバスの厚みも作品によって異なり、空間中央に置かれている立体作品も、平面作品が厚くなることで立方体となっているとのことです。平面と立体作品の境界線が曖昧となる面白い考え方ですね。
とても素晴らしい展示でした。
私がお伺いした際は、貸切状態でゆっくりと楽しむことができました。皆様ぜひ。