小谷くるみ個展「砂から星へ」
ギャラリーノマルで開催されている小谷くるみさんの個展にお伺いしてきました。
小谷くるみさんは、京都芸術大学大学院出身で、大学院卒業後も様々な個展やグループ展で精力的に作品を発表し、コレクターからも非常に人気の高い注目アーティストです。
以前、当サイトのインタビューにも答えて頂きました。
今回は、大阪のギャラリーノマルでの初個展です。
入り口にはギャラリーノマルお馴染みのフラッグが掲げられています。
このフラッグは版画工房でもあるギャラリーノマルで製作されており、今回は赤錆のシリーズの作品がモチーフです。色合いがたまりません。このモチーフを選ぶところからギャラリーノマルと小谷さんの大きな決意を感じられます。
ギャラリーのドアを開けると、まず目に飛び込んでくるのが、鉄錆のシリーズです。
鉄錆で描かれた作品で、染み付いた錆を痕跡の象徴として表現しており、今回は、造花モチーフの作品と破れた金網モチーフの作品が展示されています。
特に「咲かない花束」という200号の作品がとても素晴らしい作品でした。離れてみると一見写真ようなクオリティですが、寄ってみると確かに錆で描かれていることがわかります。
墨で描かれたような色の濃淡や擦れ具合がとてもいい味を出しており、余白部分のオレンジが黒の存在感を高めています。
展示スペースの中央にある作品は、新たな立体作品のシリーズ「< shiki > Steel, Cinnamon, Stromatolite」です。
これはストロマトライトとシナモンを用いた作品で、鉄板の上にシナモンが撒かれ、その上に磨かれたストロマトライトが配置されています。
ストロマトライトは、光合成により酸素を作り出すシアノバクテリアの活動によって作られた層状の堆積構造です。
簡単にいうと地球の酸素のタネで、このシアノバクテリアが作り出した酸素のタネのお陰で、私たち人間などの生物がこの地球に誕生しました。
ストロマトライトの年間成長率は0.4mm程度だと言われていますので、高さ40cmのストロマトライトは約1000歳です。私たちが吸っている酸素は、気が遠くなるような長い年月をかけて生き物が作り出したものなんですね。
私たち人間は、二酸化炭素を吸収し酸素を排出してくれている森林を伐採し、自動車から排出されるガスなどにより、地球の環境を壊し続けています。
このストロマトライトと世界最古のスパイスといわれるシナモンを組み合わせた作品が、人の痕跡をイメージした作品群が展示された空間の中央に配置されることにより、シアノバクテリアが作り出した世界を私たち人間が壊している現状を見事に表現しているように感じました。
そして、小谷くるみさんの代表的なシリーズ「21g」です。このシリーズは事前に問い合わせが殺到しており、今回は抽選販売となりました。大きめの作品ばかりでしたが完売と流石の人気です。
数年前に拝見した時よりもさらにクオリティが上がっているように感じました。画像では変化を感じにくいと思いますが、本当に美しい作品です。
青色が人気のようですが、オレンジの作品がとても良かったです(いつか欲しい)。
正直、「21g」シリーズは出せば間違いなく売れるし、様々な展示では「21g」シリーズを求められてきたと思います。
アートコレクターズの対談企画でも話しましたが、
作家にとって代表的なシリーズを確立させるのと同時に、2つ目のシリーズを確立させることはとても大切だと思います。
私自身、コレクターとして作家を評価する時、いくつかの視点を持っているのですが、
- 一目見て作家がわかるような代表作があるか。
- 代表作に続くシリーズが、作家名を見なくてもいいと思える作品であるか。
という部分はしっかりと見るようにしています。
今回の小谷くるみさんの個展は、代表作である「21g」シリーズは勿論素晴らしいのですが、錆のシリーズや、初挑戦のインスタレーション的な作品や銅版画を含めて、一貫したコンセプトと高いクオリティをしっかりと感じられました。
「21g」シリーズだけでは無いということを高らかに宣言したような、彼女の作家としての可能性を大きく感じる素晴らしい展示でした。
2021.7.17(sat) – 2021.8.21(sat)
13:00 – 19:00 日曜・祝日休廊