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【アーティストインタビュー】#007 山本捷平

【アーティストインタビュー】山本捷平

  • 神奈川県生まれ。
  • 2019年 京都造形芸術大学大学院 芸術専攻 ペインティング領域卒業

在学中より片岡真美キュレーションの「KUAD ANNUAL 2019 宇宙船地球号」(東京/東京都美術館)での展示や、応募点数約11,000点の中から25名が選出され展示される「アートアワードトーキョー 丸の内 2019」(東京/行幸地下ギャラリー)に出展し、見事、在日フランス大使館賞を受賞。

グループ展の「NEO SEED HANKYU ART FAIR」(大阪/阪急うめだ本店)や、初個展の「what is the “entity”」(東京/MEDEL GALLERY SHU)では、作品が完売するなど、今コレクターに注目を浴びる若手作家。


 
運営者 播磨
あるグループ展で作品を観た時、存在感や圧倒的なセンスの良さに目を奪われました。どんなコンセプトがあるのか少し疑問に思ったため、本人に直接メールを送って伺ってみたところ、想像以上に緻密に練られたコンセプトと技法を丁寧に説明して下さいました。作品の質の高さ・コンセプト・美術に対する素晴らしい姿勢を持たれており、今後が非常に期待できる作家であると感じたためインタビューをお願いしました。

自己紹介をお願いします。
山本捷平と申します。京都造形芸術大学を学部、大学院共に同じ大学で過ごして、学部の時は油画コース、大学院に入ってからはペインティングコースに所属しておりました。
 
作風やコンセプトを教えてください。
作風は、一番の特徴として自作のローラーを使って絵の具をアナログに反復させるという手法で作っています。コンセプトは、中学生や高校生の頃から興味のあった仏教哲学であったり僕の好きな文学からヒントを得ています。

物質そのものの永遠性というものを目指している西洋に対して、式年遷宮のように20年に1回物事を作り直すことで、”常若”を表現して永遠性を見出すように、ものが朽ちるということに抗わずにそれを認めて受け入れていく。且つ物事はあるけど無い、無いっていうことすら無い、その曖昧な表現の仕方に惹かれて、そういうことをアートと接続できないかなということで、反復という手法を使って物質を現象化したり、不確定性、曖昧さ、身体性を用いた偶然性というものを追求しています。

テーマを一言で言うと、実体とは何かという大きなテーマを掲げて、主に絵画を制作しています。
 
特徴であるローラーを使った作品について教えてください。
先ほどお話ししたコンセプトで、学部の3回生頃から制作しているんですけど、初めはアートのことは全然わかりませんでした。画壇とか百貨店系、コンテンポラリーアートなのかカタカナのアートなのかARTなのかっていう違いや、そのフィールドにおけるルールを知らなかったので、とにかく技術を学んでおいて損はないだろうということで描写クラスにいました。

その描写を生かしてコラージュ的な作品をしていて、当時傾倒していた、会田誠さんのような、ちょっとエログロ要素が入っていて日本を風刺したようなものを作っていたんですけど、もっとコンセプトの根幹の部分を突くためには、表層的なクールジャパンみたいな海外で取り上げられるような日本ではなくて、もっと日本の本質的な実体って何なんだろうという所に迫らなくてはいけないなということを考え始めました。

僕は手を動かすことと頭を動かすことの期間が交互に訪れる作家スタイルなんですけど、手を動かしているときは何も考えずに、いろんな実験作を作って、頭を動かす時にはコンセプトを掘り下げてどういうものに接続できるのかを常に考えるので、結構作風は紆余曲折あります。

大学院の1回生の頃には、半立体のようなものを作ってそれを削ったり、布とか多素材のものでコラージュ的な要素で遊んでみたりする作品を作っていたんですけど、あるとき筆を使ったりとか、ものを選択するという断定的な決断の連続に耐えられなくなり、選択に責任を負えなくなった時期があって、何も描けなくなりました。

何も描けないので何も描かないで描ける方法を探そうと思って、手元にあった絵の具を画面にぶちまけて、たまたま手元にあったローラーで塗るようにゴロゴロしてたら、あるパターンが連続して画面上に現れるのを見て、そこに絵画のアナロジーを感じて、これで作品が成立するんじゃないかという風に閃いて、そこから線のシリーズであったり面のシリーズ、幾何学的な技法を用いたり、イメージを取り入れたり最初の頃にやっていた抽象的なものに立ち戻ったりしてシリーズが増えていきました。
 
自身の優れていると思う点は何ですか?
詭弁がうまい。どう転んでも、自分は正しいんだと強く思い続けている部分がどこかにあります。でも、こんなもんでいいわけ無いだろうって思う部分もあるので、それが影響して、よくも悪くも作品点数が増えてシリーズが広がっていっています。

たまに、観ていただいている方に、まだ作風が固まっていないの?と言われることもあるんですが、僕的にはコンセプトであったりローラーを使っている作品については、一貫していると言うか何もブレていなくて、かっこいいと思う他の作家の作品を見たり、文章を読んだりして思いついたことに、自分の詭弁を載せて作品を作り上げることができるのが僕の利点かなと思います。
 
苦手なことは何ですか?
虫が苦手です。あと持病で寒冷蕁麻疹を持っていて、プールに入ったことがないので、水中が怖いです。経験がないので、海とか深海とか怖くて、顔を水に浸けるのですら心拍数が上がります。
 
影響を受けたアーティストは誰ですか?
まず、アートを教えてくれたという意味で村上隆さん。芸術闘争論を読んで、僕の知っている絵というものが、お絵かきとかポスターとかいろんな種類がある中で、コンテンポラリーアートの中に所属するペインティングって言うものが自分がやりたいことなんだと言うのを教えてくれた作家という意味で根底に村上隆さんがいます。最近でいうと、クリストファー・ウールとかスターリング・ルビーが好きです。その都度好きなアーティストも変わるので現段階ではその二人です。
 
どんな子供でしたか?
やんちゃ気味ではありましたが、母がちゃんとした教育をしてくれたといいますか、厳しめの家で、正しいことは正しい、悪いことは悪いと素直に伝えてくれる両親だったので、あんまり度が外れたような悪いことはしてなかったですけど、よくクラスにいるやんちゃな子でした。
 
アート以外で好きなことは何ですか?
読書、ボクシングを少しやっていたので格闘技、ネットサーフィンですかね。情報を得ることが好きで、1つの物事を見たり調べたりしたらそこで気になったことを調べて数珠繋ぎに調べていって、そこに溺れたり、分からなくなって飽和するのが好きです。

あとは、書いてまとめるのも好きで、A4のコピー紙を買ってきて、関係ないことから思いついたことを常に書き留めています。それを見ながら作品を作っているので、情報が飽和するくらい吸収して、全然関係なところが繋がった時に自分は快楽を迎えられるので、それを殴り書きして壁中に貼って、これとこれで作品ができるなと思いついた時が楽しいです。
 
1番思い出に残っている作品やプロジェクトは何ですか?
修了展で発表した修了作品の《Reiterate -Laocoonte-》という、F150号を縦向きにして、横並びに5枚連結させた、高さ2273mm・横が9090mmの大作です。

僕は学部1回生から大学院の修士2回生に至るまで何も賞をもらったことがありませんでした。自分ではずっと『俺が1番わかってるし、1番うまく出せてるのに』って思ってるのに、何も賞も貰えないし、作品を購入して頂いたっていう経験が無くて自信が無くなり始めて、これから卒業してポンと放り出されて何も無くなってしまう不安が大きかった時期に、修了展において大学院内全体で2番目にあたる優秀賞っていう賞を頂きました。

それを皮切りに、森美術館のキュレーターの片岡真美さんに選出していただいて「KUAD ANNUAL 2019 宇宙船地球号」というプロジェクトで東京都美術館で展示させていただく機会を頂たり、作品をコレクターさんとかギャラリストの方に見ていただくことが出来て、コミッションワークを頂いたり現在も応援してくださっているコレクターの方々と知り合うことができました。そういうことが続いていくうちに展示の話を頂けたりとかそういうきっかけになった作品です。

僕が生み出したものではあるんですけど、「描かないで描く」みたいなものを意識しながらローラーでやってるというのもあって、僕から距離があって勝手に生まれて出来上がってしまった作品が、僕を連れて行ってくれたっていう感覚が強いです。

全身全霊をぶつけた作品が初めて評価されたことと、作品に救われたっていう意味で1番印象深い作品です。
 
夢を教えてください。
正直、わからないです。

アートはルールや歴史、哲学などあらゆるものと接続して文脈が作られていくものの、何かわからない世界だと思っていて、
我々制作者はわからないものを作ってわからない世界に挑んでいるため、世界一とか歴史に名を残すというのはどうも陳腐に感じて…

以前、大学院中に藤本由紀夫さんの講義で『アートとは隠されたものを発見するディスカバーである』と聞きました。

夢は未知の世界をディスカバーすること…と答えておきます。
 
「reiterate-radial blue_green」 Courtesy of Shohei Yamamoto
 
「reiterate-lines」Courtesy of Shohei yamamoto
 
Courtesy of Shohei Yamamoto
 
Courtesy of Shohei Yamamoto
 
Courtesy of Shohei Yamamoto
 
Courtesy of Shohei Yamamoto
 

 

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